【プロ野球ドラフト注目選手の家庭の事情】 大嶺祐太
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ロッテのユニホームに袖を通した大嶺祐太(18)の表情は、意外に晴れやかだった。
「じーちゃん、ばーちゃんと話し合って入団を決めました。島を離れるのは寂しいですが、都会で勉強して島の子どもたちに感動を与えたいです」
沖縄本島からさらに南に400キロの石垣島。大嶺の自宅は、3部屋だけの小さな一軒家だ。沖縄三味線の音色がどこからともなく聞こえてくるという。
そこで大嶺は、じーちゃん、ばーちゃん、中3、中2、小4の弟と小5の妹、叔父の8人で肩を寄せ合うように暮らしている。夜になると、玄関に面した10畳ほどの部屋に布団を敷き、叔父以外の7人が仲良く並んで寝る。
事情があって両親とは暮らしていない。祖母の孝子さん(63)がその理由を説明する。
「10年ほど前にまず父親が蒸発して島を出て行ってしまいました。5人の子どもを抱えて娘(母)がこの家に戻ってきましたが、その娘も5年ほど前にいなくなった。今、どこにいますかねぇ。祐太がロッテに入っても、まだ連絡はありません」
そんな大嶺兄弟を両親に代わって面倒を見てきた祖父の武弘さん(68)は、登野城(とのしろ)漁港所属の漁師だ。4トン漁船を所有し、3人の息子(大嶺の伯父)と一緒に沖縄独特の追い込み漁をメーンに海へ出る。獲物はグルクンなどの近海魚。収入はごくわずかで生活は苦しい。
●世帯収入は年間300万円
「4人合わせても年収は300万円を少し超える程度。車も軽トラックが1台あるきりです。ですが、ロッテさんから受け取る契約金の1億円の使い道は、祐太自身が決めればいい。私は何も欲しいものはないし、今のこの暮らしで家族は十分満足していますから」(孝子さん)
大嶺は当初からソフトバンク入りを熱望。「都会暮らしが不安」とロッテ入りを渋っていた。それが、伊志嶺監督とソフトバンクの密約説としてささやかれた。
「ノンビリとした土地柄で、沖縄本島の人ともだいぶ気質が違う。八重山商工の卒業生は、170人のうち160人が卒業と同時に島を出て行ってしまいます。東京に行くと派手なお姉さんたちが多いでしょ。大嶺はとても純朴な子ですから、悪い人にだまされないかと心配なんです」(八重山商工・山里馨教諭)
そんな大嶺が最近、携帯電話を購入した。
「全然、かかってきません。島の高校生は携帯電話を持ってませんから」(孝子さん)
来春、都会に出てきてから、じーちゃん、ばーちゃんと話すために携帯電話を使う機会も出てきそうだ。
●大嶺祐太
1988年6月16日、沖縄県石垣市生まれ。高校生ドラフト会議で千葉ロッテと福岡ソフトバンクに1巡目で指名され、抽選の末、ロッテが交渉権を獲得した。小学2年の時に「八島マリンズ」で野球を始め、中学では硬式野球「八重山ポニーズ」で世界大会3位。06年春、夏と甲子園に出場。184センチ、80キロ。右投げ左打ち。契約金1億円、年俸1000万円。
おじいさん、おばあさん孝行してやれ。頑張れ大嶺。