マリーンの風 成瀬投手、悔し涙来季の力に
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試合後、成瀬はベンチで泣いていた。ただ、下を向いて泣いていた。感情を表に出すタイプの選手ではない男の涙に、私は少々驚いてしまった。かける言葉が見つからなかった。
「あの涙ですか。最後の最後に結果を出せなかった悔しさですかね。せっかくシーズンを頑張ったのに、ちょっと点を取られただけで動揺して、そこから崩れてしまった。終わりよければすべて良しという言葉がありますけど、それが出来なかった悔しさですね。最後に自分の弱さが出てしまった」
クライマックスシリーズから1週間経ったある日、もうそろそろ心の傷も癒えているかと思い、尋ねると静かな口調でそう答えてくれた。それでもなかなか気持ちの切り替えが出来なかったのも事実のようだ。
クライマックスシリーズ後は気分転換を図ろうと地元・栃木に戻った。実家に戻り、ボーッと天井を見ていると、ふとあの場面が頭をよぎった。0―0で迎えた3回。二死一、二塁。打席にセギノール。カウント2―3。投じた7球目。低め一杯のチェンジアップ。狙い通りだった。イメージでは空振り三振。だが、打球は弾き返された。高々と上がる打球。スタンドに吸い込まれるボールを見上げる中堅手の早川。バットを天高く放り投げ、雄たけびを上げ、喜ぶセギノール。スローモーションのように何度も何度も先制されたあの場面が思い出された。あと1アウト。あと1球だった。あの場面を踏ん張っていれば……。夢を見ては、目を覚まし現実をかみ締める日々が続いた。
「まだ、駄目でしたね。地元に帰って友達と遊んでいても家に帰っても、どうしても思い出してしまう。みんな、その話題を口にするしね」
ただ、悪い思い出ばかりではない。試合後に先輩たちにかけられた言葉は熱く胸に刻まれた。西岡は「オマエで負けたら仕方がない」と背中を叩いてくれた。清水直は「ここまで来れたのはオマエのおかげだよ」と笑ってくれた。サブローと福浦はただ一言。「ありがとう」とつぶやいてくれた。今まで雲の上の存在の人でしかなかった先輩達からかけられた言葉を耳にして初めて、今季一年間精一杯投げてきたことに対する充実感をかみ締めることが出来た。
「今はもう、すがすがしい気持ちになっていますよ。あの試合のことも今はいい経験と捉えることが出来るようになっている。精神面、技術面、スタミナ面。反省するところはしっかりと反省して来年に生かしたい。この悔しさを来年にぶつけたいと思う」
まだ22歳。16勝1敗と最高の数字を出して終えたシーズンは最後にちょっとほろ苦い思い出を作ったが、それでもこの経験は将来、きっと生きる。新しい戦いも始まっている。成瀬は星野ジャパンの一員として日本代表入りを果たし、選抜チームに合流した。もう、過去を振り返ってばかりはいられない。これから、もっともっとファンを魅了する投球をしないといけない。そして日本球界を引っ張っていかないといけない。成瀬はそれが出来る投手である。
成瀬、来年も期待してるよ。