〈ナインストーリーズ1〉背番号1
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投げ込むたびに帽子が宙に舞う。池田投手は練習でも加減はしないという=青藍泰斗で
青藍泰斗の練習場のブルペン。エース池田健投手の投球は球数が100球に近づくにつれ、すごみを増してきた。練習といえども力を抜くことはない。「投球は気力。理想の投球は真っすぐで見逃し三振」。本番では、打者が動くことさえできない速球を投げ、笑顔で帽子を拾い上げたい。
142キロ。昨夏の準決勝、文星芸大付戦、池田投手が投じた球は、清原球場のスピードガンがその夏の記録した最高速だった。それから1年、球速はさらに4キロアップしたという。
176センチ、73キロと体格は高校球児として特に大きいわけではない。しかし、身体能力の高さはずば抜けている。青藍泰斗の練習グラウンドの両翼は95メートル。ホームベースからの遠投では、その先にある高さ10メートルほどの外野ネットを軽々と超えた。「だから、どれだけ遠くに投げられるのか分からない」という。
青藍泰斗の部員数は70人。投手希望は16人いる。その中で背番号「1」をつけるのはただ1人だけだ。
「走ることも、投げることも、打つことも、エースはすべてにおいて1番でなければならない」。旧葛生時代から監督を務めて26年目、数々のエースを育ててきた宇賀神修監督はそう信じる。
打撃や守備で瞬発力が重要視される野手に対し、投手に要求されるのは、9回投げ抜く持久力と、野手と同レベル以上の瞬発力だとされる。高野連関係者は「池田のストレートはすごい。この夏、最も見たい投手の一人だ」と話す。
しかし、昨夏以降、池田投手はなかなか結果を出せないでいた。
昨秋の県大会は初戦で途中登板し、敗退。今春の県大会は2回戦で文星芸大付の左腕佐藤祥万投手との投手戦の末、0―2で敗れた。2失点は暴投と悪送球が絡んだ。
「2点の失い方は池田らしかった」と小峠力主将は言う。「でも、池田じゃなかったら、とても2点で抑えることはできなかった」
独り相撲。チーム一の勝ち気な性格が災いしてしまう。「勝ち気な野球が裏目に出てしまうことがある。かっかして、自滅してしまう」と池田投手は自分を分析する。
宇賀神監督はもう一つエースの条件をあげる。「後ろ姿で語ってくれるやつ」。あいつが投げるのなら、守ってやる、打ってやる、と思われることが必要だ。
結果が出ない焦りと、甲子園への最後のチャンスという重圧。チーム全体に重苦しい空気が漂う中、チームは練習方法を少し変えた。投手と野手とで別々にやっていた練習を、全部員が同じ場所でやるようにした。
野手が終わりのないノックを受けるのを投手は見つめる。逆に投手が延々と走り込むのが野手には見える。「陰の努力は認めない。一生懸命やっている姿を見せる方がいい」と監督は言う。
チームは少し変わった。誰もが意見を言い合えるようになってきた。「仲間が練習している姿を見ると、こいつのために頑張ろうと思える」と小峠主将。「池田も声を掛け合うことで、みんなが力を発揮できることを知ったような気がする」
池田投手は試合帽のつばの裏に「ラストサマー」と書いた。最後の夏、進化した背番号1の真価が問われる。
9人が九つの守備位置に分かれて、9回を戦い抜く野球。高校野球をめぐる九つの物語をつむぐ。
7月の記事です。↑このフォーム凄くない?