2つの勲章を手にプロの世界へ
|
25日までの11日間、熱戦が繰り広げられた第34回社会人野球日本選手権大会。大会中の19日に行われたプロ野球大学・社会人ドラフト1巡目で、抽選の末、千葉ロッテが交渉権を獲得したトヨタ自動車の服部泰卓投手が最高殊勲選手賞を獲得した。創立70周年のトヨタ自動車にとって、悲願だった初優勝に大きく貢献した。
最後は自信を持って投げた。125キロのチェンジアップに、三菱重工名古屋の打者・西崎純司のバットが空を切った。その瞬間、普段はクールな服部が両手を挙げてガッツポーズ。「ちょっと恥ずかしかったです」と試合後に苦笑いしたが、その表情ははじけんばかりの笑顔だった。
今大会では3試合に先発して、いずれも1失点で完投勝利を収めた。決勝の三菱重工名古屋戦では味方が逆転した8回から登板し、2イニングをヒット1本に抑え3奪三振。3勝1セーブで文句なしのMVPを獲得した。
「社会人最後の大会でしたが、あまり考えずにいつも通りのピッチングができればと思って投げました。夏(都市対抗)は優勝できなかったけど、最後の大会で勝って終わることができた。力は全部出し切れたと思います。本当にうれしい」
日本選手権で、服部は一番の持ち味である安定感を発揮することができた。「社会人では、精神面で大きく成長できたと思います」と、トヨタ自動車に入社してからの3年間での成長を強調。特にこの1年で飛躍的な成長を遂げたようだ。
千葉ロッテは「即戦力」として太鼓判
ストレートと変化球の巧みなコンビネーションが光る服部に、1巡目指名した千葉ロッテも大きな期待を寄せている。
服部は、昨年もドラフト候補に名前が挙がっていた。しかし、大きな実績がなく自信が持てなかったため、会社への残留を決めた。昨年の日本選手権後に行われたアジア大会では日本代表として出場。先輩の上野弘文(広島)が抜けた今シーズンのトヨタ自動車のエースとして、服部は名実ともにフル回転の活躍を見せた。夏の都市対抗では、1回戦でNTT西日本を完封。「先発して試合が作れる。何より、どの試合も失点が少なく計算できる投手」と、各球団のスカウトの評判が一気に上がった。
最速144キロのストレートを持つが、アベレージは130キロ台中盤。これといった変化球もない。それでも、スライダーやチェンジアップを巧みに使い、ストレートをより速く見せることができる。これが服部の大きな魅力だ。このピッチングスタイルと安定感は、チームの後輩選手にも大きな刺激となっている。
「服部さんはことし、先発して3点以上取られた試合がない。すごいピッチャーです」と話したのは、今大会の準々決勝で先発した佐竹功年。女房役の捕手・二葉祐貴も「服部さんは球にキレがあって、スライダーの使い方がうまい。捕手として、自分もすごく勉強できました」と話す。
「(ウチには)良いピッチャーがたくさんいるし、来年以降も頑張ってほしいですね」と閉会式の後に話した服部。後輩に慕われる服部の魅力は、こういうところにもあるのかも知れない。
今シーズンの公式戦で19勝1敗と1年間を通して安定した成績を残した服部に、交渉権を獲得した千葉ロッテも大きな期待を寄せている。決勝戦までの全ての試合を見届けた松本尚樹スカウティングスーパーバイザーは「先発して完投できるし、今日みたいにリリーフもできる。すばらしい投手ですね。即戦力としてプロに入っても活躍できますよ」と太鼓判を押した。
「これからは打者のレベルも違う。自分の実力をもう1ランク上げたいと思う」と、最後にプロへ向けての抱負を述べた服部。社会人日本一と最高殊勲選手という勲章を得て、プロへの扉を開く。
期待しちゃうぜ、服部くん。