エースの条件を実践した清水の復活劇
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昨季は不調だった千葉ロッテの清水直行が、9日の埼玉西武戦、16日の東北楽天戦と2試合連続完投勝利。復活の気配を見せている。1月に愛妻を亡くした悲しみから立ち直っての活躍に、千葉ロッテファン、プロ野球ファンとどまらず、多くの人々の感動を呼んだ。だが野球とプライベートをすべて結び付けて語られることは彼にとって本意ではないはず。今回は野球だけに絞って書いていきたい。
最近5年で3度も開幕投手を務めるなど、黒木知宏の後を継いで千葉ロッテのエースを担ってきた清水は、おととしまで5年連続2ケタ勝利を記録した。しかし、昨季は6勝10敗、防御率4.78。8月25日の福岡ソフトバンク戦に敗れた時点で6年連続2ケタ勝利が絶望的になった。
「マダックス(米大リーグ・パドレス)が20年連続2ケタ。あれが投手の理想ですよ。これで途絶えたと思うとね……」
翌日、清水は落胆を隠せなかった。
速球と高速スライダー、カーブ、フォークを軸に、制球力にも優れる清水。だが、最大の長所は粘り強い精神力にある。
「どんなに調子が悪くても、いくら勝ち星がつかなくても、ローテーションを守って長いイニングを投げて試合をつくる」
決してキレることはなく、その積み重ねが2ケタ勝利だった。それが、昨季は自分の思うようなボールを投げられなかった。「体が一塁側に流れてしまうから」という理由で右打者の外角へのスライダーを減らし、内角球を多投。試合中も微妙なバランスの矯正に取り組むなど、試行錯誤を繰り返した。それでも結果を出せなかった自分に腹立たしさを感じたまま昨季は終わった。
■味方のカバーをしてこそ信頼を得られる
今季は開幕から連敗スタート。だが、9日の埼玉西武戦、清水は初回から大松尚逸の満塁本塁打などで大量援護をもらい、5回を終わって8対0と一方的な展開になった。西武打線を5回まで1安打に封じ込める投球で、私はCS放送『Jスポーツ』で、解説の松沼博久さんと完封の可能性について話し始めていた。ところが、6回2死から味方の失策で二塁に走者を背負うと、続く片岡易之に適時打を浴びた。結局失ったのはこの1点だけ。翌朝、清水に「失策がなかったら…」と言葉をかけると、清水は熱く語り始めた。
「あそこは抑えないといけないんですよ。たとえば、失投が原因の本塁打も、余計な四球も投手としては反省すべきなんでしょうけど、それよりも、仲間の守備のミスをカバーしなければいけない。僕は完封とか何とかより、それが一番大事なことだと思うんですよ。あそこで抑えてこそ味方の信頼を得られる。それが投手として、エースとして大切なことなんです」
これが表向きでもなんでもない、男・清水直行の胸の内だ。
『エースの条件』が試される場面はすぐにやってきた。16日の東北楽天戦。同点の5回は先頭打者を、1点リードの8回は1死から俊足の渡辺直人を、いずれも失策で走者に背負った。だが、清水は前週の言葉通り、どちらも後続を断ち相手に点を与えず、2対1の投手戦を制した。
「連続2ケタはもう一度始めて、ずっと続けていきますから」
投手として、エースとしての強い精神力を見せての2試合連続完投勝利――昨年オフに語ってくれた清水の力強い言葉がよみがえってきた。
今シーズンのエース論は説得力あるなー。